SSH指定第II期の成果

本校の校是である「たくましき前進者」を「科学技術イノベーションを担う人材」とみなし、未来の創り手となる人材育成を目的としています。また、たくましき前進者に必要な能力として「たくましき7つの能力」を設定し、これらの能力育成を「授業改善」、「課題研究プログラム開発」にて行っていくことが指定第II期における研究の目的です。

授業改善

授業改善の実施に対して生徒アンケートを行ったところ以下のことが分かりました。

協働的思考力の育成

生徒をいくつかのグループに分けて課題を解決させていくことで育成されるが、授業ではその課題が広い場合、あまり深まっておらず、ある程度課題の範囲を限定した(演習問題や実験の考察など)方が、有効度は高く、より協働的思考力が育成されている。

創造的思考力の育成

英語イマージョン授業における他教科での授業を実施。授業の中に英語を日本語に置き換えて理解し、日本語を英語に置き換えて表現する両活動が含まれているものは特に創造的思考力が育成されている。

創造的思考力と英語とに相関が得られたため、英語での授業の中で創造的思考力が育成されている可能性が大きい。(本校では英語授業の大きな特徴であるICTの活用を他教科でも取り入れ授業改善を行っている。)

批判的思考力の育成

生徒間の意見の違い、扱う教材の中で2つ以上の立場を用いて授業を進めていくことで育成されている。

  • 国語では、物語の登場人物ごとに行動や心情の根拠を探らせることで育成される。
  • 数学では、問題の解説を生徒間で相互にやり取りさせることで育成される。
  • 地歴公民では、社会問題や歴史問題に対してディベート形式での授業により育成される。
  • 理科では生徒が科学現象について考察を行い、ルーブリックに基づいて自己評価、生徒間の相互評価を行うことで育成される。

能力の定義

また、授業開発アンケートの到達度をテキスト分析することで、校内で共通理解のとれた能力定義を行うことができました。

  1. 基礎知識・・・各分野の内容を理解し、その分野の基礎知識を明確にし、定着させることができること。
  2. 幅広い基礎力(以下4つのスキルから構成)
    • 言語スキル・・・各分野の内容を理解し要約することができる技能。またその内容を言葉や数式を用いて記述したり、他者に説明する技術。
    • 数量スキル・・・,数量で示された事象を表や計算により適切に処理し、まとめることができる技能。
    • 情報処理スキル・・・資料や得た情報を精選し、必要な情報を取り出すことができる技能。
    • 実技スキル・・・得た技術や知識を実際に行うことができる技能。
  3. 探究力(以下4つの力から構成)
    • 課題発見能力・・・現状を分析し目的や課題を明らかにする力
    • 課題解決能力・・・起こっている問題を分析して課題の原因を明確にし、解決に導く力
    • 論理的思考力・・・各分野の内容や他の意見を的確に捉え理解する力。また、各分野の基礎知識をもと に順序立てて考え、それを説明する力
    • 総合的表現力・・・文章や言葉、英語を用いて聞き手、読み手を意識して表現することができる力
  4. 人間力(以下4つの性質、力から構成)
    • 感受性・・・外からの刺激や印象を受けいれる性質
    • 共感性・・・周りの人の感情をあたかも自分自身の気持ちであるかのように感じられる性質
    • コミュニケーション力・・・自分の意見や考えを、相手に明確に伝えることのできる力
    • 積極性・・・進んで物事を行おうとする性質
  5. 批判的思考力・・・他者と自己の意見、または考えの違いを認識し、その上で思考したり主張する力
  6. 創造的思考力・・・各分野の知識を現実世界に応用したり、新しいアイディアを思考する力
  7. 協働的思考力・・・グループ内や他者との話し合いの中で、問題を解決するために思考し合う力

課題研究プログラム開発

本校では理数科、普通科の全員が課題研究に取り組んでいます。その中で、生徒アンケート、教員アンケートの分析により以下のことが分かりました。

1.課題研究を行うにあたって

課題研究は行う際、その目的が不明瞭なまま進めても課題研究における効果があまり得られないことが、教員アンケートや生徒アンケートからも分かっています。課題研究を始める際の目的の説明、そして実施後のまとめこそ、充実した研究活動を行うために必要な要素です。本校では生徒用テキスト、指導者用テキストの冒頭にその目的を掲載し、学校全体でその目的を共有できるようにしています。課題研究テキストの冒頭は以下のとおりです。

『課題研究』とは自ら課題を設定し、それの課題を実験や考察を繰り返し解決していく探究活動を通して、様々な能力を身に付けていく授業である。これから皆さんはどんな職業に就いたとしても、与えられた課題はもちろん、自身で課題を見つけ出し、自らの力で解決していく能力が求められることになる。その時までにどんな能力を備えていれば良いのか、是非ともそのことを考えながら『課題研究』に取り組んでもらいたい。

社会で対峙する課題とは、授業中に皆さんが対峙している各教科での演習問題とは全く異なり、特定の分野の知識だけを活用するだけのものではない。分野を越えた広い知識を身に付けなけばならないし、それを活用して、結び付けていかなくてはならない。また先を見通して計画を立て実行し、その結果を吟味する場面にも多く出くわすだろう。時には自身の考えを相手に伝えたり、大勢の場で発表することもあるだろうし、相手の考えを理解し、ともに協力し合うことも必要となるはずである。どんな状況でも、どんな困難でもそこに希望を見つけ出し、希望をつかみ取るような「未来の創り手となるたくましき前進者」に必要な能力をこの『課題研究』を通して身に付けてもらいたいと考えている。

2.課題研究のテーマ設定について

課題研究に関するアンケート結果から、研究テーマの設定に対して大きな不安を抱えている教員が多いようでした。生徒の自由な発想のもとテーマを設定し、研究活動を進めることができればそれに越したことはありませんが、必ずしも現実的なテーマであるとは限りません。班によっては意見が出ない場合も考えられるため、その場合は以下を参考に研究テーマを設置することも可能です。

2-1.鞍手高校課題研究論文共有フォルダから検索

本校SSHで行った課題研究論文と、過去理数科で行った課題研究論文から生徒が検索し、ヒントを得ることが可能です。本校ホームページ上に『課題研究論文検共有フォルダ』を掲載しました。

2-2.より意欲的に研究活動を進められる進路希望別研究テーマの設定

課題研究に関する生徒アンケートの結果から、進路希望に沿った研究を行った班の方が意欲が高く、主体的に研究活動を進めていたことがわかっています。そのため、指導者用課題研究テキストには進路希望別の課題研究テーマ一覧を載せています。

3.研究活動の指導について

これまで本校で実施してきた課題研究に対する生徒アンケートや職員アンケートの結果から、指導におけるポイントを以下のようにまとめました。

3-1.充実した協議(協働的思考力の育成)のために

本校の課題研究の多くはグループでの研究を行っている。しかし、ただグループで研究を行えばいいというわけではないことに注意してもらいたい。

能力別授業改善の結果からも明らかになっているが、協議の際に、話し合う課題が広い場合はその内容はあまり深まっておらず、ある程度課題の範囲を限定した方が、より協働的思考力が育成されている。そのため、協議が行き詰まった場合は、段階的に話し合うように誘導することも必要である。

3-2.多角的な視点から研究活動を進める(批判的思考力の育成)のために

批判的思考力は協議の中で育成される。そのため上記にように充実した協議を行っていくことが不可欠である。また、授業においては生徒間の意見の違い、扱う教材の中で2つ以上の立場を用いて授業を進めていくことで育成されている。そのため、同じ課題をグループ内の別の人間が思考することで生じる差異により育成したり、同じ課題を別の教科の視点(化学的、物理的、生物的)から考えることで生じる差異により育成することも可能である。

3-3.新しい発想を生み出す(創造的思考力の育成)のために

創造的思考力に関しても協議の中で育成されやすいことがアンケート結果からわかっている。研究活動の中で実験や調査結果が出た場合、すぐに協議させるのではなく、一度個人で考察する時間を確保し、その後グループ内で協議させることで育成されやすい。